武将ブームの先駆者!大河ドラマ特集

世相から読み解く!「大河ドラマ」一挙紹介 ノンフィクション作家・井上宏生氏が、‘大河ドラマ’を年代別に分析。その時代の世相を反映し、日本社会の歴史とともに歩み、そして移り変わっていく作品の変遷を紹介します。
1963年~1970年代へ

テレビ界に大旋風を巻き起こした大河ドラマの幕開け

 1960年代に入ると、日本は国民所得倍増計画、高度成長政策、貿易自由化と経済大国への道を歩みはじめ、それとともにテレビ界にもあたらしい風が吹きはじめた。1963年の正月にはフジテレビがアニメ「鉄腕アトム」を放映している。これは国産アニメの記念すべき第一号だった。
4月7日からはNHKが「花の生涯」を放映。大河ドラマの第一号だ。これは幕末の大老、井伊直弼の生涯を描いたもので、主役の直弼を歌舞伎の尾上松緑が演じている。大河ドラマの華々しい門出だった。
 翌64年には銀幕の大スター、長谷川一夫が「赤穂浪士」で大石内蔵助を演じ、最高視聴率53%を記録。65年の「太閤記」では緒形拳が豊臣秀吉を、66年の「源義経」ではこれも梨園の人気役者、尾上菊之助が悲劇のヒーロー・義経を演じ、大河ドラマはテレビ界に大旋風を巻き起こす…。
1963年~1969年作品
1970年代~1980年代

高度成長の時代とともに変化を遂げる

 1970年代になると日本は本格的な高度成長の時代に入っていったが、それとともに大河ドラマも徐々に変化していった。
 71年には剣に生きた柳生宗矩が主人公となる。演じたのは萬屋錦之助。宗矩は徳川家康、秀忠、家光の三代に仕え、兵法を政治の場に生かして徳川幕府300年の礎を築いた重臣だった。ここでは戦う英雄ではなく、平和を維持する人間像を描いている。
 74年の「勝海舟」では近代夜明けを支えた海舟を描き、78年の「黄金の日日」では戦国末期を舞台に海外との交易を開いた自由人、呂宋助左衛門が主役となった。
 80年代に入ると、81年には秀吉の生涯を妻の立場から描いた「おんな太閤記」が、84年には激動の昭和を舞台に日系人兄弟の運命を描いた「山河燃ゆ」が登場。85年の「春の波濤」では日本人女優の草分け、マダム貞奴の一生を描いている。
 これらの作品の背景にあるのは日本の国際化と価値観の多様化だといえようか。
1970年~1979年作品1980年~1989年作品
1990年代

大河ドラマに吹き込まれた新風

 昭和の時代が終焉し、平成の世になって年には三代将軍・家光の乳母を描いた「春日局」が登場、大原麗子が春日局を演じ、翌90年には明治維新に命を賭けた男たちの物語「翔ぶが如く」が放映されている。
 そこでは過去の大河ドラマに通じる女の献身的な姿や時代を駆け抜けた男たちの情熱が描かれていた。だが、92年の「信長」は一味ちがい、合理的な思考で中世的な秩序を打ちこわした信長が宣教師、ルイス・フロイトの目を通して描かれている。これも日本の国際化の流れを反映したのだろう。
 93年の「琉球の風」も異色作だ。この作品の舞台は17世紀の琉球王国であり、薩摩に侵略に抵抗する琉球の若者たちが描かれている。これまで信長、秀吉、武田信玄、上杉謙信、伊達政宗といった日本人の武将が主人公になっても、日本に侵略される側が主人公になった例はない。その意味では大河ドラマに新風が吹きこまれたといえよう。
1990年~1999年作品
2000年代

21世紀に突入・・・そして二つの大きな潮流へ

 21世紀に入っていくと、大河ドラマは二つの大きな潮流にわかれていく。
 一つがこれまでと同じように英雄たちの劇的な生涯が描かれ、彼らの妻たちの生きざまもテーマとなった。前者が01年の「北条時宗」、03年の「宮本武蔵」、05年の「源義経」、後者には02年に前田利家の妻を描いた「利家とまつ」、06年に土佐藩主、山内一豊の妻・千代の方を描いた「功名が辻」がある。
 もう一つの流れが英雄たちを支えた影の主役が主役に躍り出たことだ。07年に内野聖陽が山本勘助を好演した「風林火山」、今、放映されている「天地人」がそうだ。勘助は信玄の軍師であり、「天地人」で妻夫木聡が演じる直江兼続は上杉家を支えた参謀だった。
 組織をいかに支え、発展させるか。それはきびしい競争にさらされた組織社会では重要なテーマだ。経営者やサラリーマンにとっては避けて通れない。そんな時代の要請が軍師たちをクローズアップさせたのだろう。
1963年~1970年作品
2010年以降の傾向は・・・

時代が求めるテーマとは

 大河ドラマはつねにそれぞれの時代の風を反映してきたし、これからもますます風を敏感に感じとっていくにちがいない。そのキーワードは『国際社会のなかの日本人』と『人間へのやさしさ~強者と弱者の共存』ということになるだろうか。それはこれからの時代が求めているテーマでもある……。

井上宏生~プロフィール~
1947年、佐賀県生まれ。ノンフィクション作家。著者に「スパイス物語」(集英社)、「神さまと神社」「日本神話の神々」(ともに詳伝社)ほか多数。